「一瞬で心をつかむできる人の文章術―1日たった15分10日間で上達!」の6日目です。
「ストーリー仕立てで書く」テクニック6日目:会話を挿入して書いてみる
会話文を書くときには、いくつかのテクニックがあります。
ひとつは、誰がそのセリフを言ったのかを明確にすることです。
「」のうしろに、誰々が言った、と明記します。
- セリフで状況を説明するパターン
- 心理とは逆の事を言ってしまうパターン
- かみ合わない会話のタイプ
ためしに、家族団らんの風景を描写してみましょう。
ニートVS毒親
私は30歳の誕生日をあと数日後に控え、今後の人生の進むべき道に悩んでいる。
しかし、それ以上に切実な問題が私の人生に重くのしかかっている。
それは父の存在だ。
私の父は、いつも怒っている。
口を開けば、
「いつになったら働くんだ!」
「仕事を選んでいる余裕なんてないぞ。」
「覚悟が足りないから、どこにも雇ってもらえないんだ!」
と、私の心の傷を遠慮なしに攻撃してくる。
母も最近では私を擁護してくれなくなった。
私の肩を持つと、父が攻撃の矛先を自分に向けるからだろう。
「お前がそうやって甘いから、いつまでもこいつが甘えてるんだ。」
「誰のおかげでメシが食えてると思っているんだ、女のくせに調子に乗るな!」
「俺の言っている事が気に入らないなら、こいつを連れてお前も出ていけ!」
こんな何の役にも立たない悪態を、今まで何千回聞いたことだろう。
父とは顔も合わせたくないし、同じ空気を吸いたくもない。
しかし、同居している限り、それは避けられない。
家を出ようにも、私にはまだそんな経済的基盤は無い。
時には、どうしても父に話しかけなければいけないこともある。
「あのさ・・。」
私は食事中の父に話しかける。
「なんだよ、今テレビ見てんだよ。」
父は、あからさまに不機嫌かつ迷惑な顔を見せる。
(おれだって、お前なんかと話したくないんだよ)
心の中で毒づきながらも、「冷静になれ」と自分に言い聞かせる。
「あんたの署名が必要な書類があるんだよ。」
私は吐き捨てるように言う。
「何の書類だ?まさか借金でもおれに押し付けようってんじゃないだろうな!?」
父が大声で言う。
「そんなんじゃねえよ!こないだ受けた会社の採用通知が来たんだよ!雇用契約書に保証人の署名が必要だったから、あんたに頼もうと思っただけだ。」
先週面接を受けた会社で採用が決まったことを、私はまだ父に伝えていなかった。
父に言っても、どうせ文句しか言わないだろうと分かっていたからだ。
会社とは言っても、従業員5人ほどの小さな印刷所で、給料もアルバイトとほとんど変わらない。
「なんだと!?仕事決まったのか?どんな会社だ?」
私は仕事の内容と、会社の事業について、父に簡単に説明をしてやった。
すると案の定、大評論会が始まった。
「ふん、いつつぶれるか分からんような会社だな。」
「まあ、もっといい会社に転職できるまでのつなぎとしてなら、許してやってもいいぞ。」
「しっかし、そんな吹けば飛ぶような会社のくせに、雇用契約に保証人を求めるなんざ・・・。身の程を知れってんだ!」
そんな父の言い分を聞いて、私はまるで自分がけなされているように感じた。
小さいとはいえ、確固とした職歴も実績も無い私を採用してくれた会社だ。
少しくらい喜んだり、会社に感謝を示してくれたりしてもいいではないか。
「もうお前には一生たのまん!親戚の一郎おじさんに頼むから、この話は忘れろ!」
そう言って私は居間を飛び出した。
「おい、待てこの野郎!まだ話は終わってねぇ・・・」
背中で父の声を聞きながら、私は自分の部屋に鍵を閉めた。
雑感
会話文というものは、確かに強力な手法だと分かりました。
説得力、伝達力、臨場感。
文章に命が宿ります。
ただし、会話文は使い過ぎると力に振り回されるので、冷静な視点も必要になるようです。
明日の練習テーマは「説明文を挿入して書いてみる」です。